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今日は、お向かいに住むDashaのお母さん、Annaの誕生日だった。娘と私、そして、Daniel一家がディナーに招待された。
Dashaの家族は、ロシア系ユダヤ人である。90年代初頭にロシアからイスラエルに移民した家系である。お父さん、お母さんが20歳前後に、移民先のイスラエルで知り合い結婚して、すぐに娘が生まれた。まだ30前後。若いファミリーである。若いときから激動の世界をくぐりぬけて生きているから、とても成熟していて、そんなに年が離れていることを微塵も感じさせない。ワインをいただきながら、彼らの歴史を聞かせてもらう機会は、生きる現代史セミナーである。 お父さん、ミヒャエルの家族は白ロシアの出身で、ちょうどソビエトが解体する直前にイスラエルに移った。お母さんアンナの家族はモスクワの出身で、解体が済んでからイスラエルに。ミヒャエルの一家の家などの財産は、ソビエト解体後新国家が建設されたため没収、市民権も剥奪された。一方アンナの家族は、新国家に変わった後だったので財産は確保できたのだという。 メディアの力は大きいと改めて思う。ミヒャエルやアンナが子供だった80年代半ばまでは、旧ソビエトの人々は、ソビエトこそが世界一成功した豊かな国家だと信じていたという。資本主義が支配するなか困窮にあえぐアメリカの人々に手を差し伸べようと言うキャンペーンが学校で行われ、文房具や身の回りの品々を詰めたパッケージを一生懸命作って送ったのだそうだ。自分が今までやったなかで、一番こっけいな行為だよ、とミヒャエルは笑い飛ばした。それが、テレビ映像が流れるようになり、一瞬に世界観が変わったのだそうだ。 90年代の初めには、イスラエルから、移民キャンペーンの一団が頻繁に訪れ、ユダヤ人の家族の移住をさかんに呼びかけた。近代化された国家、いい仕事の機会、いい教育の機会、全てがばら色の国イスラエルへ、というお題目。ソビエト崩壊の流動期で不安が広がり、食料にも事欠く状態だったから多くの人がイスラエルに入植した。ちょうどその時期、イスラエルに旅行したことがある。街中にロシア人があふれていて、街で物乞いをしている人々も多かった。ドイツで報じられているトーンでは、困窮したロシア人が勝手に押し寄せてきているというものだったから、そんな移民キャンペーンが行われたことなど知らなかった。 そこで起きたのが、ロシア系移民の流入による人口過剰増加である。いろいろな社会機能がパニックに陥った。特に労働市場の攪乱は大変だった。ミヒャエルは、大学に行く前に仕事にようやく仕事にありついたそうだ。倉庫の荷物の積み下ろしをする重労働で一日まさに20時間働く仕事。時給がなんと60セントだったという。アメリカのマクドナルドの10分の1だ!それでは食べていくこともできない。食料より人間の方が過剰な状態。 ミヒャエルの専門は、古文書学である。現代語では、ロシア語、ヘブライ語、ドイツ語、英語、イタリア語、その他をこなすけれども、古代語でもラテン語、ギリシャ語、ヘブライ語、およびそこから派生する各種言語ほとんどをカヴァーする。大体2ヶ月あれば新しい言語をマスターできるそうだ。それを始めた動機というのが、一時まじで、遺跡発掘して黄金宝石を掘り当てるしか、人生一発逆転の道はないんじゃないかと思ったからなのだという。地上の遺跡はほとんど発掘計画が決まっているが、海洋考古学というのはエマージングフィールドで、地中海には秘宝を積んだ船がごろごろと沈んでいるらしい。現代の技術をもってすれば発見から引き揚げは可能なのだが、問題は、国際海洋法との絡みもあり、発掘権の特定が複雑怪奇なのだそうだ。そこで考古学者のライセンスを持っていることが重要だそうだ。面白そうである。 イスラエルの戸籍法も複雑。ロシア系移民問題は複雑怪奇だ。ミヒャエルの両親は両方ユダヤ人なのでミヒャエルはユダヤ人なのだが、アンナのうちは、お母さんがロシア人。イスラエルの戸籍法では、アンナはユダヤ人でなくなってしまうのだそうだ。そして、ユダヤ人と非ユダヤ人の婚姻が認められていない。そこで、ミヒャエルとアンナは、結婚にあたって、ブルガリアにいき、そこで結婚したという。よってイスラエルでは婚姻が成立していない。二人の娘、ダシャは、アンナの私生児という扱いである。これが、また第三国にいくとき、問題を引き起こす。例えばアメリカに来た時も、2人の関係が証明できなければ、アンナとダシャのヴィザがおりない。 20歳で結婚し21歳でダシャを生んだ後、アナがこれまで生きてきた8年間の人生は何と濃いのであろうか。イスラエルに帰っても職はないので、どこか他の国で仕事を探さなければならないという。今年はミヒャエルとプリンストン大学とのコントラクトが半分の籍になったので、生活費捻出のためにアナが働きはじめた。アメリカ人の中にはいるとひときわ目立つほどのやせっぽちだ。 でも、彼ら一家からは、貧しさや苦労からの悲惨や不平の香りは全くない。ダシャはのびのびととてもクリエイティブに育っていて、女王さまのように誇り高い。えりすぐりの本を読みこなす。しゃれた言い回しの英語をいつの間にか身につけている。TVケーブルも入れてないけど、それはくだらない番組に興味がないから。インテリアも、こんなのどこで見つけたのというようなアンティークをどこからかしっかり探してくる。食料も美味しいものを少しづつ。まだ若いのに老成した彼らからいつも豊かさとは何かを教わっている私である。 実はパーティにはちょっと遅れてしまったのだが、理由は、娘の地理の宿題だった。ミシシッピリバーとオハイオリバーのクロスするところで接している州の名前をすべて挙げよとか、南アメリカで、国境を形作っている川の名前を3つ挙げよとか。国境と川がうまく重ねて掲載されている地図がないのである。一苦労して仕上げたわけだ。Dashaの家の、立派な本が並ぶ本棚に、革表紙の立派なWorld Atlasを見つけ思わず手に取った。素晴らしい上質の紙にこっくりとした色合いの多色刷り印刷で、情報量の極めて高い地図。「あああ、これこれ、こういう地図を探していたんだけど本屋に売ってないのよー、薄っぺらなのばっかりで・・・。」と思わず歓声を上げた。 「ああ、それ、いいでしょ、3ドルで買ったんだよ、図書館の放出セールで。」 知識は力である。知識がある人にはいろいろな窓が開けているに違いない。外国に暮らす最大の魅力は、今まで存在すら知らなかった窓の在処を教えてもらうところかもしれない。
by tigress-yuko
| 2005-12-08 21:32
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