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アメリカに住んでいると、外食率が極端に低下する。アメリカのレストランはなかなかいけるよ、というならネタにもなるが、不味いというのは、ブログに書くのも憚られるくらい陳腐だ。しかし生活していると、ボディーブローで効いてくるような深刻な問題である。皆なるべく言わないようにしているけれど、本当は暴動が起きそうなくらい不満がたまっているのではなかろうか?いや、レストランのせいにしてはいけない、自分の料理のヴァリエーションと忍耐の限界が本当の問題だ、と、不死鳥のように、料理への闘志を燃やすのであった。
先週、娘がロシアン・クックブックという本を借りてきた。食文化地理学的アプローチのなかなかに面白い本で、凍りつく大地からの限られた自然の恵みから、知恵を絞って数々の料理を編み出してきた文化が語られていた。これには泣けた。80%ぐらいは手にも取ってみないようなジャンキーな製品があふれ返った棚を横目で見ながらひたすら重いカートを押す買い物も、食べ物を得るための行列を考えれば我慢できるじゃないか。この限られた棚の中からいかに宝を見つけるのかが知恵だ。冷戦時に、深刻な物不足のロシアから、「資本家に搾取されたあわれな同胞」にむけて、物資をさかんに送っていたというミヒャエルが語ってくれた話を思い出す。そうそう、ここでこそ、ロシアの大地を生きる女の逞しさを見習わなくてはならない。 肉、ジャガイモやにんじん、キャベツといった基本アイテムを美味しく食べる方法を考えようと思う。それに基本調味料。今日は、塩にコダワルことにした。Wegmanは、ちょっと、グルメ志向を取り入れた中級よりやや上ぐらいのスーパーである。Whole Foodsが、マイナーなグルメブランドとPBで売り場を固めているのに対して、NBも多い。Whole Foodsが一ビン10ドルもするような海の塩に力を入れているのに対して、Wegmanではフツーの大箱1ドルどかーんみたいな塩も売っている。 面白いのはWegmanにKOSHERの製品が多いことだ。KOSHERはヘブライ語でproperという意味で、ユダヤ教の経典Torahが定めた手続きにしたがって処理された食品のことである。基本的にはジューイッシュ御用達であるが、Kosherの工場は清潔で、添加物なども加えられていないから純度が高いということで、ジューイッシュ以外の人々にも次第に浸透しはじめ、KOSHERにしたがって加工された食品にはKOSHERマークが貼ってあるのである。Country of Origin ならぬ、Religion of Originのブランディングである。 中でも一番、ノスタルジックな面構えをしたMortonのKosher SALTを買う。傘を差した女の子が塩をこぼしているマークが可愛い。でもこれは何を意味しているのだ?塩降って地固まる?まさか!早速、野菜をゆでるのに使ってみた。それが、すばらしく、美味しいのである。硬質な味で、ガツンとした味わい。単に野菜に塩しただけなのに、味が立体的になる。ええ、これ、すごい。しんなりと弱い日本の塩と比べると、全く違う味の世界である。これで肉を焼いたらばっちり決まりそうだ。だいたい、Kosher SALTって何なのだ、と今さら興味がわく。 Kosher Saltというのは、添加物が含まれていない、大きな結晶構造を持つ粗塩である。結晶が大きいので、水分を吸い易いのが特徴。塩自体の製法がkosherに基づいているわけではないが、この塩で料理をすると、肉の血をよく吸い取ることができるのだ。。Torahは血の含まれた肉を食べることを禁じているため、肉を処理する際の厳密な手続きが定められているわけである。なるほど。「血を一滴たりとも流してはいけない。」訳である。しっかりとした味にしあがるのは、塩が素材のうまみを吸収するので、塩の成分とうまみ成分が融合するからに違いない。 Mortonは150 年以上もの伝統のあるブランドである。設立は1848年、Alonzo Richmondという男がNYシラキューズからシカゴに来て、Onondaga Saltのエージェントを始める。カリフォルニアのゴールデンラッシュで塩の需要が爆発的に増加してビジネスが拡大。1886年に、Joy Mortonがこのビジネスを買収。その後買収を重ねて大きくなる。彼は、当時クレーブランド大統領の下で農務省の長官をしていたS.Sterling Mortonの息子であった。Big Bossesの時代に政治と産業界が密着して企業の統合が進んだ時代である。 1911年、morton社は、炭酸マグネシウムを塩に添加して塩をさらさらにする技術を開発、テーブルソルトを発明した。傘を持った女の子のマークが登場するのは1914年である。当時ナショナルブランドが形成される時の典型のパターンで、成長する雑誌、Good Housekeeping 誌に、"When It Rains, it Poors". キャンペーン広告をシリーズで掲載して人気を博す。このスローガンは、"It never rains but it pours."ということわざに由来する。降るときは必ずどしゃぶり、悪いことは重なるという意味だ。マークは、雨は降るわ、塩はこぼすわ。でも、湿気ることなくいつもさらさらよ、っていうところか。 戦後、カナダやバハマなど海外の製塩関係企業の買収にのりだす。ケベックの塩山を買収し、道路の氷調整のための塩のケベックと大西洋側のマーケットを押さえ、製塩関係のコングロマリットを形成する。そして、1999年にはお決まりで、フィラデルフィアに本拠地のある特殊化学製品の会社、Rohm and Haasに買収されている。とても典型的な伝統的なブランド企業のライフサイクルである。 傘をさす女の子のロゴは1914年から1968年の間に何回も変遷しているがそれ以降は成長が止まる。成熟分野には手をつけず、別分野にどんどん投資をするからだろう。少女の頃にアメリカですごしたならば、等身大で親しんだであろうようなノスタルジックなマークに、パッケージ。60年代の自分に出会ったみたいだ。娘が子供を持つ頃にもこのマーク残っているかしら。残っていそうな気がするな。所有権はいくら変わってもブランド資産は残るのがこの国だから。黄金時代のアメリカのままで止まった時を見たような気がした。
by tigress-yuko
| 2006-01-16 22:45
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